2008年春、渋谷ユーロスペースにてレイトショーされる
映画『船、山にのぼる」の監督・本田孝義のブログです。

本田孝義

2011/6/2 木曜日

『青空どろぼう』

今日も午前中、バージョン4の編集版を見る。何度も見ることからしか始まらないこともある。

午後、『青空どろぼう』というドキュメンタリー映画の試写に行く。またぼけまして、試写開始時間を間違えて早く行ってしまった・・。このドキュメンタリー映画は、今年、『平成ジレンマ』を映画館で公開して話題になった、東海テレビ製作。東海テレビと言えば、愛知県のフジテレビ系列のテレビ局で、数々の優れたドキュメンタリー番組を作ってきたことで有名だ。(特集上映あり。もっとも僕はあまり見ていない・・・。)「なんだ、テレビ番組を映画館でやるのか」などと差別的なことを言う人もいるかもしれないが、実は、僕のような東京に住んでいる人間は、東京以外(これも考えてみれば差別的な言葉だが、いわゆる「地方局」)のテレビ局が作った番組を見るチャンスはかなり少ない。(全国ネットされている番組はのぞく。)だからこそ、映画館で見る機会がある、というのは貴重なのだ。加えて、映画版は放送版より長く編集されている。前置きが長くなったが、この印象的なタイトルは、日本の4大公害の一つと言われる、「四日市ぜんそく」からきている。僕が子供の頃(1970年代)には、社会の教科書にも公害の代名詞のように「四日市ぜんそく」のことが書かれていたものだ。だから、つい、過去のこととして忘れてしまいそうになるが、当然、患者の方は数多くいるわけだし、映画の中でも語られているように、石油コンビナートがなくなったわけではない。本作が興味深いのは、直接的な被害者だけではなく、澤井余志郎さんという方に光を当てたこと。澤井さんは写真と文章で40年以上、四日市ぜんそくのことを記録し続けてきた。その分量やものすごいものがあるし、こういう人がいて初めて公害の実態が後世に伝えられるのだと思う。決して公式記録では出てこない、人びとの声。また、テレビ局の強みとしては、古い映像もふんだんに使い、公害がおきた頃の雰囲気を伝えている。映画を見て初めて知ったのは、1987年に「公害健康被害補償法」が改悪され、財界の要望から新規の公害病患者認定を廃止したということだった。患者がいないから認定を廃止した、というのが恐るべき建前だが、本当にそうなのか、本作のスタッフは丁寧にしらみつぶしに実体を調査している。そして、現在も肺気腫などを発病する人がいることが分かってくる。とても丁寧に作られた力作だと思うのだが、不満がなかったわけではない。それはなんだろう、と帰りしな考えていたのだが、それは多分、本作にはあまり破たんがないからじゃないか、と思った。ドキュメンタリー映画とは不思議なもので、時として全体のバランスが崩れてでも、作り手の感情によって動揺や亀裂や喜びや怒りがほどばしることがある。そういうものが見えるべきだ、とは必ずしも思わないのだが、本作にはもう少しそういう面が見えたらもっといい作品だったかもしれない。とは言え、原発事故による放射能汚染が止まらない現在、40年以上続く四日市ぜんそくのことを今あらためて知るべきだ。

未分類 — text by 本田孝義 @ 23:06:54