2008年春、渋谷ユーロスペースにてレイトショーされる
映画『船、山にのぼる」の監督・本田孝義のブログです。

本田孝義

2008/9/11 木曜日

「出星前夜」/『多摩ニュータウン わたしの街』

ここのところ読んでいた本は飯嶋和一著「出星前夜」。500ページを越える大著だからリュックサックに入れてあるいていると重い、重い。もう、面白くて電車の中でも読んだりしていたのに、長いものだからなかなか終わりが見えなかった。昨晩、寝る前に本を開くと、残り100ページほどになっていて、なおかつクライマックスなもんだから、もう一気に最後まで読み終わった。さて、本作。事前の情報で「島原の乱」を描いた、と聞いていたので、てっきり天草四郎の物語かと思っていたら、天草四郎はほとんど出てこない。けれども、島原の政治状況、圧制に苦しむ農民の生活を克明に描写して、島原の乱とはなんだったのかを骨太に描き出す。登場人物もいずれも魅力的。読み終わってあらためて思ったのは、繊細で細やかな描写と骨太な話が絡み合って読み終わってずっしりと手ごたえを感じること。残念ながら今の日本の映画には望むべくも無い。それは劇映画、ドキュメンタリー映画関わらず。(でも、それには理由があるわけだから、嘆いてもしょうがないことでもある。)小説にはまだある、ということだろうか。

今日は昼過ぎにパルテノン多摩に行って、『多摩ニュータウン わたしの街』という、ドキュメンタリー映画を見た。この映画のことは製作中から聞いていて、今年完成し、見たいと思っていたのだけどどうしても都合があわず、今日になってしまった。それでも、やっと見れてよかった。映画はごくごく大雑把に言うと、多摩ニュータウンの昔とこれから、といった感じでしょうか。『ニュータウン物語』などというタイトルをつけた映画を作った者としては当然、気になるわけです。ただし、入居の時期はほぼ同じながら、街の規模はそれこそ全く違うわけで、単純に比較も出来ない。

さて、肝心の映画ですが、僕には少々残念な映画でした。理由ははっきりしていて、いったいこれは誰が作った映画なのかよく分からなかったからです。文章で一人称・二人称・三人称とあるように、「私」「あなた」「彼(彼女)」が主語で表現が変わってくるものです。この映画はカメラマンの南さんが冒頭から出てくるわけですが、ナレーションはあくまでも客観的なナレーション。なら、南さんが主人公となって引っ張っていくのかと思ったらさにあらず、南さんが撮影したインタビューも出てくる。僕は、たとえご本人が喋らなくても、南さんの目線でナレーションが語られるほうがすっきりするのになあ、と思って見ていました。さらに、この映画の製作委員会の会議も出てきたりして、メタ映画のようでありながらその効果もなく、僕には映画が漂流しているように見えてしまった。そんなこんなで、一体、この映画は誰が作っているのかよく分からず、内容に入り込めませんでした。でも、ニュータウンがふるさとだ、という気持ちは僕の世代でも共通するので、全国のニュータウンの映画を見て見たいなあ、と思いました。

未分類 — text by 本田孝義 @ 21:48:44