2008年春、渋谷ユーロスペースにてレイトショーされる
映画『船、山にのぼる」の監督・本田孝義のブログです。

本田孝義

2010/6/10 木曜日

『告白』

湊かなえの原作「告白」は独白文体が面白い小説だった。だからこれが映画化されると知った時は、一体どうすんだろう、と興味は湧いたがそれほど見たいとも思わなかった。予告編が流れ始め、とても違和感があったので逆に興味を持った。で、映画を見てみた。これは今年最大の問題作かもしれない。原作を読んでいる者としては、松たか子演じる教師の長い長い独白がきちんと映画になっていることに驚いた。ただし、その描き方はリアル方向ではなく、画面はスタイリッシュ。およそ原作の雰囲気とは違うのだが、「見せる」という意味では「あり」だと思った。松たか子の熱演と相まって引き込まれた。その後の負の連鎖とも言うべき事件の連続は、語り手が変わることで小説を読んでいる時はそれなりに読みすすめられたが、さすがに映像になるとやりすぎ感は強い。それでも、高度なパズルを組み合わせたような構成の妙で見せる。僕は的外れを承知で言えば、ふと、ノワール、という言葉が浮かんだ。伝統的なノワールというジャンルではなく、今のこの日本でしか成立しないような新しいノワール、として。(もしあれば滝本誠のこの映画評が読みたくなった。脱線すれば、氏の新刊「映/画、黒片」が楽しみ。)そして、原作のラストはさすがにやりすぎだろう、と思ったのだが、この映画ではそこを逆手に取ったあり得ないほどのやりすぎ感を文字通り爆発させて、原作にはないたった一言が真っ暗な画面に聞こえることで全てをひっくり返す。そこも見事だった。問題は僕が原作を読んでいることで、原作を知らずにこの映画を見た人はご都合主義と思う人も多いだろう。いずれにしても、人間の暗黒面(ダークサイド)をスタイリッシュに描いたことは興味深かった。(ただ、スローモーションの多用には閉口。)

未分類 — text by 本田孝義 @ 23:43:08