2008年春、渋谷ユーロスペースにてレイトショーされる
映画『船、山にのぼる」の監督・本田孝義のブログです。

本田孝義

2010/9/9 木曜日

『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』

今日は『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』というドキュメンタリー映画を見た。昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭でも上映されたのだが、時間が合わず見れなかったのだけど、ずっと気になっていた作品だった。簡単に書くと、有名な傑作を多数所蔵するアムステルダム国立美術館の改修工事が2004年に始まるのだが、地域住民の反発などもあって工事はとん挫。そのてんやわんやを描いた作品。映画の冒頭、今回の改修工事の概要が建築家を含めて発表される。まず僕はこの改修案がピンとこなかった。なぜ、地域住民から反発が出たかと言うと、この美術館の構造が独特で、建物の真ん中・エントランス部分が「門」のようになっていて、日常的に住民の通り道になっていたのだが、改修工事案ではこのエントランスを掘り下げ、中庭を作るようなものになっていた。住民の中でも特にサイクリスト協会の人たちが「これじゃあ、自転車が通れないじゃないか」と怒ったわけです。(実際には全く通れなくなるわけではなく、かなり自転車の通り道が狭まるという感じでしょうか。)映画では以前の状態が見られないので即断は出来ませんが、僕は美術館の中が通り道になっているのは素敵だな、と思ってしまったのです。加えて、時たま古い建物を生かしたリノベーションでも、変に現代建築の意匠を接ぎ木したようなものもあり、この改修案も同じように見えてしまったのです。もっとも、古い美術館を現代的に、という発想で改修案が出てきたのですから、コンペで通るような改修案はどうしても目新しいものになるでしょうし、建築家もそこにやりがいを見出すでしょう。面白いのは、美術館の運営と建築物とでは考え方・あり方が違っていて、建築物の改修には住民合意が必要で、結局否決され、そこから迷走が始まるのです。多分、日本では住民の考え方など無視されて工事はあっさり進んだことでしょう。この辺の違いは興味深い。この映画は大きく言って二つの要素を描いています。一つは上記のようなこと。もう一つが美術館改修にあたっての、内部の展示の検討および絵画の修復です。僕は、個人的には後者にはあまり興味を持てませんでした。もちろん、何をどのように展示するかは美術館の肝、というのは理解しているつもりです。けど、学芸員の方たちの話には少しついていけませんでした。美術の知識が豊富な人はこちらの話の方が面白いのでしょうけど。改修工事には、もうひとつ大きな課題がありました。研究センターを敷地内に増築することです。今度はこの高さが問題になり、結局低くすることに。エントランスは別の妥協案が示され、一応合意されますが、建築家はすっかりやる気喪失。加えて、館長は辞職。そして、最後の最後に再び大きなドラマが・・・。結果、アムステルダム美術館の改修は進まず、2008年にオープン予定が2013年までかかることに。監督のインタビューを読みますと、本来2008年オープンを目指して撮影していたのが、すったもんだの騒動に巻き込まれて、とりあえず映画を完成させたものの続編を製作中のよう。映画は端正で堂々とした撮影と人間ドラマが絡み合って見ごたえある作品になっている。

未分類 — text by 本田孝義 @ 23:55:19