2008年春、渋谷ユーロスペースにてレイトショーされる
映画『船、山にのぼる」の監督・本田孝義のブログです。

本田孝義

2011/12/12 月曜日

『Rocks Off』

この年になると、映画を見て驚くことはそうそうないのだが、今日は驚くべきというしかない映画を見てしまった。タイトルは『Rocks Off』(安井豊作監督)。本作は2004年に解体された法政大学学生会館(通称:学館)のドキュメンタリー。一言で説明するとそうなるのだが、学館の説明はほとんどなく、ひたすら学館(正確には学館の本部棟)の解体工事の映像、および学館の壁、そして特筆すべき灰野敬二のピアノ演奏が何度か繰り返される。映画の構造も内容も、僕にはとても「硬い」映画に思えた。(難しいという意味ではなく、肌触りという意味だ。)こんな強度を持った映画はちょっと思いつかない。(解体のノイズから一瞬、『ヴァンダの部屋』を思ったのだが、本作では人の存在感すらなく、そこが決定的に違う。)先ほど、灰野敬二、と書いたのだが、薄暗い照明で顔すら見えず、冒頭の少し猫背でピアノを弾く姿は、何かの魔物のようにさえ見え、事前情報がなければ、灰野さんだと分からない人もいるかもしれない、と思うぐらいだ。そして、僕はやはりこの映画は建築についての映画だと思う。さらに言えば、僕はこういう映画が作られたことは、法政学館の最後の姿としてとても幸福なことだ、と思った。・・・ここからは映画を離れた個人的な話を。本作の監督・安井豊作(改名前は安井豊)さんは僕の人生に影響を与えた方なのだ。(ご本人は覚えておられるかどうか・・挨拶をしたら僕のことは覚えてくれていたけど。)1992年、僕が大学6年生の時、将来の先行きも見えず、ぼんやりとドキュメンタリー映画に興味を持ち始めたころ、当時、アテネフランセにおられた安井さんがふらりと学館にやってこられて「小川紳介と小川プロダクション」全作品上映があることを教えてくれた。(この年、小川紳介監督が亡くなり、追悼上映が行われようとしていたのだった)ドキュメンタリー映画に興味を持ちつつも、テレビではない、映画としてのドキュメンタリーを見る機会は当時ほとんどなかったので、滅多にないチャンスだと思ってアテネフランセに通って小川プロの映画を多数見たのだった。もしかするとあの時、安井さんに声をかけてもらっていなければ、もしかすると今、僕がドキュメンタリー映画をやろう、と思わなかったかもしれない。その後、しばし時間が流れ、いつの間にか大学卒業後、僕は小川プロの全作品再上映を手伝うことになっていた。順番が逆になったが、最後に法政学館の話。1973年に建てられ2004年に解体されるまで、法政の学館は学生による自主管理が貫かれていた。その中で音楽の企画をやっていたのが映画のタイトルになっているRocks→Off、僕が関わっていたのは映画の上映をするシアターゼロ。(安井さんはその両方だった。)演劇の企画をしていたのが黒いスポットライト。(こうして見ると、どの名前も根源的な思考を持っていたことが分かる。)学生の宿命故、その全期間に関わった人はいないと思うので時代・時代で感じ方も様々だろう。僕自身が、主にホール棟を管理する立場にいたのは1989年~1992年の4年間だった。法政の学館が解体されたのは内在的要素と外在的な要素が複雑に絡み合っていると思うのだが、僕自身は卒業後はほとんど関われなかったので偉そうなことは何も語れない。映画『Rocks Off』はノスタルジックな要素は皆無だが、それでもラストカット近く、大ホールに明かりが付くシーンには胸が熱くなった。灰野さんの演奏は法政学館を葬送する儀式のようにも思えた。なお、映画『Rocks Off』はまだ未完成だそうだ。また、安井氏初の単著『シネ砦 炎上す』http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B7%E3%83%8D%E7%A0%A6-%E7%82%8E%E4%B8%8A%E3%81%99-%E5%AE%89%E4%BA%95-%E8%B1%8A%E4%BD%9C/dp/4753102955 も買ったのだが、今週は多忙なため、読むには来週からになりそう・・・。

未分類 — text by 本田孝義 @ 23:43:18