2008年春、渋谷ユーロスペースにてレイトショーされる
映画『船、山にのぼる」の監督・本田孝義のブログです。

本田孝義

2011/11/17 木曜日

『コンテイジョン』

なんだか見た映画の話ばかり書いている気がするが、まあ、いいか。今日は『コンテイジョン』を見た。まがりなりにもバイオハザードに関する問題をいまだに追いかけている身としては見なければいけないだろうなあ、と思っていた。感想に入る前に、近年、SARSや新型インフルエンザなどの流行もあって、病原体によって人類の危機が訪れる映画が増大した。加えて、多くの作品が作られてきたゾンビ映画も人がゾンビ化する原因として病原体を理由にするものも多い。だから、さすがにもう、全然、全部追いかけることなんてしていない。時々、アンテナに引っかかった作品を見るぐらいだ。で、本作だ。映画の宣伝ではアカデミー賞受賞俳優が多数出演していることを売りにしているが、監督のソダバーグはそこを逆手にとったことが面白い。ほとんどの出演者が見事にスターのオーラを消しているのだ。時々、こういうことをやるのがハリウッド映画の懐が深いところ。バイオハザードの描写としては、多分、僕は初めてちゃんとしているな、と思った。世界中のパンデミックが描かれるのだが、突然血を吐くような扇情的な描写を避けている。また、感染の広がりも徐々に徐々に広がる様がきちんとしていて、突然人類が死滅したかのようなバカな描写もなく抑制されている。同時に、いわゆるハリウッド映画のセオリーでは、問題を英雄的に解決するヒーローが描かれたりすることがあるが、こうした人物も出てこない。唯一、英雄的とも言える行動をするのはCDC(疾病管理センター)の女性研究者が開発途上のワクチンを自分に打つことぐらいだろう。(それすらも、「英雄じゃない」と自分で打ち消す。)また、過剰な人間ドラマを持ち込まない点にも好感を持った。要は基本的にはパニック映画ではあるのだが、そのパニックがじわじわ進行し、少しずつ世界が壊れていくのだ。・・・と僕は映画を面白く見たのだが、現実に目を向けると気になることがある。近年、新型インフルエンザや鳥インフルエンザの人への感染が過剰に危機感を煽られている、と僕は感じている。ウィルスは変異するので、強毒化する可能性は原理的にはあるのは当然だが、本当にパンデミックが起きるかは別問題だ。一部の学者が過剰に危機感を強調したことによって、ワクチンの備蓄などに膨大な予算が使われている。(ワクチンには有効期限があるので、使われなかったワクチンは毎年大量に破棄される。)鶏が先か卵が先か、ではないが本作のようなフィクション映画も人びとが危機感を持つことにいくらかは貢献しているだろう。もし仮に「予防」として対策が必要だと言うのなら、現に今起きている原発事故後に懸念される疾病も同じように防がれなければならないはずだ。(もちろん、病原体と放射能では疾病が起きる原理が全く違うので様相が違うのは当然だ。)片や起きてもいないパンデミックの危機感を煽り、片や現に進行しつつある放射能による被害の危険を低く見積もるのは、政府の対策としてとてもちぐはぐだと思うのだ。

未分類 — text by 本田孝義 @ 23:19:46