2008年春、渋谷ユーロスペースにてレイトショーされる
映画『船、山にのぼる」の監督・本田孝義のブログです。

本田孝義

2011/11/11 金曜日

『エンディングノート』

今日は、『エンディングノート』(監督:砂田麻美)という、これまた話題になっているドキュメンタリー映画を見た。僕の住んでいる錦糸町のシネコンでも上映してるぐらいだから、ヒットしているのだろう。実は、僕はこの映画を見る気がなかった。なぜなら、この映画は父親がガンで亡くなって行くことを娘が撮った、と聞いていたので、僕は父が亡くなって5年経つとはいえ、どうしてもあの頃のことを思い出しそうで、見たくなかったのだ。けど、ちょっとしたことがあって、見ておいた方がいいと思ったので見に行った。確かに映画は、上記のような映画なのだが、構成・編集がとても高度に出来ていた映画だった。本当はラストシーンである、葬儀のシーンから始まり、時制をものの見事に展開し(近い過去や大過去に自在に映像が切り替わる)物語を飽きさせないようにつないでいく手腕はすごいと思った。が、同時に、そこまでやっていいのか、という不安も正直感じた。僕はどうもうまく語り過ぎるドキュメンタリーには警戒感が働くらしい。加えて、監督が(最初は監督の声とは思っていなかったのだけど)父親の内面を勝手に斟酌してナレーションで語るので、面白くする仕掛けはさらに整っている。こうした技巧は特に前半部分に集中していて、後半からは父親の健康がさらにすぐれなくなってからは、ナレーションも少なくなり、じっくりと見せるトーンに代わって行く。この変化も実によく出来ている。・・・というのが映画の作りに関しての感想。僕は映画を見ながら、やはり父の場合と比較して見ていた。まず、この映画の父親・砂田知昭さんと僕の父はどちらも胃がんで、末期がんだった点が共通していた。けど、砂田さんの方が少し元気そうだった。なぜなら、闘病がしばらく続いたようだし家にも帰れていたし旅にも行けていたし、食べるものもそれなりに食べていたようだから。(抗がん剤の治療とかは大変だっただろうけど、そうしたシーンはほとんど出てこない。)僕の父は、検査入院から結局3週間後に亡くなってしまったから。もうひとつ共通していた点があって、砂田さんの病状の進行は思っていた以上に早く、余命がかなり短いことが分かるシーンがあり、家族は結局、そのことを砂田さんに伝えない決断をする。僕の場合は、父は胃の手術をしたのだが、全く処置できないことが分かり、結局、何もせずそのまま体を閉じた状態だった。要は抗がん剤にしろ、何にしろ、治療は出来ないということで、その後は緩和ケアしかなかった。父の兄姉、僕と妹で相談して、父にはそのことを伝えないことに決めた。(胃がんの手術をすることは伝えていたけど。)医者から、本当のことを伝えた場合、急激に悪化する可能性がある、と言われたからだ。だから、父は手術が成功して胃を取った、と思っていた。短い時間とは言え、亡くなるまでずっと本当のことを伝えなかったことはつらかった。父はもっとつらかった、と思う。今でもあの決断でよかったのか、思い出すことがあるが、ああしか出来なかった、というのが本音だ。映画の砂田さんはそれでも、さすがに亡くなる数日前には死期を悟っていたようだ。僕の父は、多分、亡くなるほんの少し前まで、死ぬとは思っていなかっただろう。(それほど、緩和ケアの効果が絶大だったのは驚きだった。)映画の砂田さんと僕の父の大きな違いは、父は熟年離婚していたので、夫婦のつながりがなかったことだろう。(当然、僕の母親、父の元妻は一度も病室には来なかった。僕はそのことは当然だと思っていた。)まぁ、他にもいろんなことを思い出したのだが(例えば葬儀のことなど)長く書きすぎたのでこの辺でやめておこう。

未分類 — text by 本田孝義 @ 23:45:26