2008年春、渋谷ユーロスペースにてレイトショーされる
映画『船、山にのぼる」の監督・本田孝義のブログです。

本田孝義

2011/1/19 水曜日

『ソーシャル・ネットワーク』

何かと話題の『ソーシャル・ネットワーク』を見た。不思議な感触のする映画だった。僕はフェイスブックもやっていないし、こうしてブログらしきものを書きつつも、ネットを活用している人間でもないので、題材にはそれほど興味はなかった。唯一、監督のデヴィッド・フィンチャーに興味があった。かつての才気ばしったヴィジュアリストとしての外形はかなり抑えられつつつも、引きつけられる絵作りではあった。不思議だ、と思ったのは主人公がフェイスブックを作って、どんどん参加者が拡大していく、言ってしまえば「成功話」であるはずなのに、どこか冷めていて、画面が熱くなることもなく、むしろ寒々しいことだ。(凡庸な映画がやりがちな、「ネット上の熱狂」を描写しないことも成功していると思う。)同時に、主人公にも感情移入しづらい。それでも見続けられるのは、映画が冷徹に心の空洞を見つめているからではないだろうか。物質主義を強烈に批判していた『ファイトクラブ』と対極的な世界でありつつも、結局、ネット上のつながりもまたどこか空しい、そんな映画だと思う。映画の世界を象徴するような、トレント・レズナーの音楽がいい。特に、冒頭、リリカルかつ寂しいピアノの音の底に不気味なノイズが鳴っている曲が象徴的だ。もうひとつ、僕は最初、裁判の時制が分からず、少々混乱したのだが、この構造は僕が今考えている映画の構造と似た部分があるかもしれない。(蛇足だが、撮影をジェフ・クローネンウェスが担当しているのも感慨深い。彼は『ファイトクラブ』も担当しているが、前にも書いたけど『エイリアン3』で当初、彼の父であるジョーダン・クローネンウェスが撮影監督だったことをメイキングで知ってびっくりしたのだった。)

未分類 — text by 本田孝義 @ 23:33:30