2008年春、渋谷ユーロスペースにてレイトショーされる
映画『船、山にのぼる」の監督・本田孝義のブログです。

本田孝義

2011/7/2 土曜日

『田中さんはラジオ体操をしない』

今日は午前中、『田中さんはラジオ体操をしない』という奇妙な(?)題名のドキュメンタリー映画の初日に行ってきた。僕はこの作品、2年前の山形国際ドキュメンタリー映画祭で見ている。監督はオーストラリア人のマリー・デロフスキー監督だが、日本人の田中哲朗さんが主人公ということもあって、”ニュー・ドックス・ジャパン”で上映された、と記憶している。僕自身は、別の映画で田中さんのことを知っていたし、短いながらも演奏を聞いたことがあったので興味しんしんで見に行ったのだが、会場は異様に盛り上がっていた。とにかく、田中さんのパワフルでしかもファニーなキャラクターに圧倒されている雰囲気だった。その熱気が肩を押したこともあって、本日、映画館での公開がついに始まった。上映前には田中さんの挨拶(というよりアジテーション?)と2曲の生演奏。僕は田中さんの話を聞きながら、「原発事故を起こした東電でも沈黙させられた社員がいたのだろうなあ」と思っていたら、田中さんが同じことを語られていた。社員をハッピーに出来ない企業が社会をハッピーに出来るわけがない、という田中さんの考えはシンプルだけどつい忘れられやすいことだと思う。前置きが長くなったが、本作はオーストラリア人の監督がなぜ田中さんに興味を持ったかから始まり、沖電気に解雇されてから25年(撮影時、今年で30年!)毎日門前で抗議の歌を歌い続ける姿を映し出していく。タイトルにある、「ラジオ体操をしない」というのは、本当に職場でラジオ体操を拒否したことが遠因になって解雇されたことを指している。解雇されてから、田中さんはギター教室を開いている。僕がこの映画を見てジーンときたのは、2人の息子が登場するシーン。お二人とも音楽の仕事をしているのが素晴らしい。そう、田中さんはご自身で”シンガーソングファイター”という通り、音楽家なのだ。特に、二男が父へ捧ぐために作った曲を聞かせ、思わず涙ぐむ田中さんがいい。お二人とも子どもの頃は父のことがよく分からなかったけど、大人になって分かった、尊敬している、と語っている。僕はふと自分のことを思う。僕の父は田中さんとは随分違うけど、会社の組合活動で随分社内でいじめられていた。母はそういう父に批判的だった。結果、随分、ぎすぎすした家庭だった、と思う。僕も大人になってから、やっと父のことも母のことも理解できた、気がした。だから、『ニュータウン物語』を撮った。『ニュータウン~』撮影中に父とはいろんな話をしたけど、いつまで経っても照れくさいもので、何かを本音で話すことは出来なかった、と思う。だから、田中さんの息子さんがストレートに父のことを歌にしていていいなぁ、と思ったのだ。そして、その歌が本作の主題歌になっている。えらく脱線した話を書いてしまったが、とにかく本作の田中さんを見ると元気が出ること請け合い。残念ながら、今日の会場には若い人が少なかったけど、僕はぜひ、将来を迷っている高校生・大学生・新入社員に見てほしいと思う。田中さんのように間違ったことを間違っていると言い続けるのは難しいと思うかもしれないけれど、少なくともこの映画を見ると、そういう勇気の握りこぶしを心の中で持ち続けることを少し後押ししてくれると思うから。

未分類 — text by 本田孝義 @ 22:47:54