2008年春、渋谷ユーロスペースにてレイトショーされる
映画『船、山にのぼる」の監督・本田孝義のブログです。

本田孝義

2009/7/10 金曜日

「ドキュメンタリー作家 土本典昭」展

6月30日から8月30日まで、東京国立近代美術館フィルムセンター展示室で、「ドキュメンタリー作家 土本典昭」が開催されている。始まったのは知っていたのだけど、つい行きそびれていたところ、昨日、土本基子さんからご案内をいただき、思い立ったら吉日とばかり今日、行ってきた。(明日のトークショーには行けないので。)遺品などの展示と聞いていたので、どんな展示なのか、見る前はあまり想像できなかった。漠然と故人を偲ぶ、みたいなものだと嫌だな、とも思っていた。展示の初めに、土本基子さんが作られた「土本典昭からのメッセージ」という20分ほどのビデオが流れている。ドキュメンタリー映画をどういう考えで作られてきたかが端的に語られている上に、ふっとその場で土本さんに語られているような感覚を覚える。横の展示物には、早稲田大学の学生証なんていうものもあって、僕は多分、学生証など捨ててしまっただろうなあ、と思う。その後も、貴重な資料がずっと並ぶ。特に目を引くのは、映画撮影前後に土本さんが書かれた膨大なメモや文章。土本さんの思考過程が立体的に浮かんでくるようだ。見ていくうちに、自然と背筋が伸びていく。数ある資料の中で、とりわけ僕の眼をひいたのは、『水俣 患者さんとその世界』上映会の集計表。どれぐらいの人が見て、上映会にどれぐらい経費がかかったか、1円単位まできっちり書き込まれた表だ。当時の上映の熱気は想像するしかないのだけど、具体的にこうして数字で見ることができたのは驚きだった。と同時に、今現在、多くのドキュメンタリー映画が映画館で公開されているけれど、そうした状況との比較もできる。食い入るように見てしまった。展示の最後は、土本さんの仕事部屋を再現。新聞のスクラップが棚にきちんと並んでいる。全体の展示を見て思ったのは、映画、とりわけドキュメンタリー映画を作る、その生き生きとした息使いのようなものが感じられたことだった。故人を偲ぶ、なんてものではなく、今も映画作りに悪戦苦闘している人たちへの叱咤激励、あるいはエールにも思えてくる。ぜひ、多くの人に見てほしい。

会場を出ると、土本基子さんがおられた。お手紙のお礼を言った後、ついあれこれ感想を述べてしまった。

未分類 — text by 本田孝義 @ 23:45:19