2008年春、渋谷ユーロスペースにてレイトショーされる
映画『船、山にのぼる」の監督・本田孝義のブログです。

本田孝義

« 「僕の見た『大日本帝国』」メイシネマ上映会2010夏 »

2010/8/15 日曜日

濃密な一日

午前中、府中に出かけて”『遺言 Part3』福島菊次郎 最終講演&写真展”に行ってきた。福島さんは89歳になられ、今年が最後かもしれないとの思いで「遺言」というタイトルをつけられているそうだ。福島さんと言えば、学生時代のことを思い出す。今日の講演でもお話があったが、福島さんは1980年代のバブル時代に嫌気がさして東京を離れ、1984年に瀬戸内海の島に移住された。しかし、1989年天皇が亡くなったことを受けて、「写真で見る戦争責任」を企画。ところが、当時、右翼を始め様々な妨害があり写真展がつぶされることが相次いだ。そこで、僕が行っていた法政大学でも福島さんの写真展をやろう、ということになり実行員会が結成され、緊迫した雰囲気の中写真展を開催した。(僕は横で見ていただけですが。)講演会も開催し、僕も福島さんと一緒に打ち上げに行った記憶がある。それから20年以上経ったわけですが、2年前の講演は聞きに行けなかったので、今回の写真展の実行委員会の方からのお知らせもあったので、行った、というわけです。写真は約350点あり充実している。福島さんの写真はとてもシャープなことに気づく。学生時代に見た写真が多かったのだが、中でも福島さんのデビュー作とも言うべき「ピカドン」に収録されている中村杉松一家を撮った写真には学生時代にも衝撃を受けたが、今日もあらためて衝撃を受けた。すざまじい写真だ。また、今日見た写真では離島関係の写真も興味深かった。講演では福島さんは敗戦時の様子を克明に語られ、あっという間に時間がなくなっていく。今日、お話を聞いて驚いたのだが、福島さんがプロの写真家になるべく東京に出てきたのが、41歳の時のこと。今の僕と同じ年だ。エネルギッシュなお話だった。

府中を後にして、渋谷へ。ペドロ・コスタ監督『何も変えてはならない』を見る。いい映画だった。が、上映状態にちょっと不満。この映画は1:1.3のはずなのだが、ヴィスタサイズでフィルムを焼いているせいだと思うのだが、カットマスクをヴィスタサイズに合わせて上映していた。まぁ、普通のカラー映画ならそれほど気にならなかったかもしれないが、モノクロでしかもやたら暗い画面が多い映画だから、監督の研ぎ澄まされた構図の妙がぼやけてしまって、イライラした。映画は女優で歌手のジャンヌ・バリバールのドキュメンタリー。リハーサルやレコーディング、あるいはコンサートをひたすらじっくりと写しだす。画面が美しくて引き込まれるが、構造はいたってシンプル。そこがいい。照明が素晴らしく、普通のテレビの取材などでは絶対許されないような、一部分しか照明が当たっていない画面が雰囲気を作る。別の見方をすればアンニュイな雰囲気だけで押し通したとも言えるけど。こういう我儘な映画を見ると勇気がわく。

続いて、『28 1/2 妄想の巨人』を見る。企画コンセプト(舞台版「鉄人28号」のメイキングにフィクションの要素を入れる)は面白いと思ったのだが、映画を見ながら企画倒れ、という言葉が浮かんだ。女性カメラマンが舞台稽古を撮影していくのだけど、全然生きていない。最後の方でやっと展開が動き始めるも時すでに遅し。演出家=押井さんの失踪、という設定も舞台がほぼ完成(何せゲネプロまでやっている)しているので効果なし。もっとも、舞台を混乱させないことが大前提だと思うので、フィクションを持ち込んでも混乱させるわけにはいかなかったのだろう。その辺がどうにも中途半端だと思った。『トーキング・ヘッド』のような映画かと思い、ちょっと期待していたのだけどそうはならなかった。

未分類 — text by 本田孝義 @ 0:31:44

コメント (0) »

この記事にはまだコメントがついていません。

コメント RSS トラックバック URL

コメントをどうぞ