2008年春、渋谷ユーロスペースにてレイトショーされる
映画『船、山にのぼる」の監督・本田孝義のブログです。

本田孝義

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2010/10/25 月曜日

「9・11の標的をつくった男」

建築関係の本で「建築論」や「建築史」ではなく、「読み物」として面白い本はなかなかない。今日、読み終わった9・11の標的をつくった男 天才と差別―建築家ミノル・ヤマサキの生涯」(飯塚真紀子著)は読み物として面白い本だった。タイトルを奇異に感じた人もいるかもしれないが、2001年9月11日のテロで倒壊した世界貿易センタービル(WTCビル)は、日系人2世のミノル・ヤマサキが設計したものだったのだ。僕も事件当時、その話を知って、一体どういう建築家なのか、どうしてWTCを設計することになったのか気になったのだけど、その後、あまり詳しい話も見聞きしなかったので、本書はとても興味深かった。本書の最初の方は、丁寧にアメリカでの日系人の歴史をたどっている。ヤマサキ家(本当は山崎=ヤマザキらしいのだが、アメリカで発音しにくいのでヤマサキにしたらしい)の足跡も実に丁寧にたどっている。副題にある「差別」というのは日系人が差別されてきたことにもある。ミノル・ヤマサキが建築家として頭角を現し、いくつもの賞を取る過程など、建築史としても面白い。ヒューマニティーを重視していたミノル・ヤマサキがWTCを設計することになり、港湾局その他と大激論する様子なども多くの関係者への丹念な取材で描かれていく。建築史の印象としては、ミノル・ヤマサキの名がほとんど忘れ去られたように思えるのは、このWTCが酷評されたことにもよるようだ。だが、あのビルがなくなった今となっては、何がしかのシンボルであったことは間違いない。最近も、とある少し前の映画を見ていて、窓の向こうにWTCのビルが見えているシーンにはっとしたことがある。ミノル・ヤマサキの歩みで興味深いのは、晩年、サウジアラビアの空港などに携わっていたことだ。ご存じのように、WTCテロの首謀者とされている、ウサマ・ビンラディンの一家はサウジアラビアの建築会社を経営している。間接的にではあるけれど、ミノル・ヤマサキと接点があったわけだ。同時に、ミノル・ヤマサキはイスラム建築をとても好きだったようで、WTCのデザインにも一部その意匠が取り入れられていたらしい。歴史の皮肉、というか。あるいは筆者が推測しているように、そういう点がウサマ・ビンラディンの癪にさわったか。もしそうなら、文字通り「建築テロ」と言えるのかもしれない。本書はミノル・ヤマサキのキャラクターもよく描かれていて、いい本だと思った。

未分類 — text by 本田孝義 @ 23:20:39

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